単独処理浄化槽と合併処理浄化槽の違い完全ガイド【2024年最新】
1. 浄化槽の基礎知識
浄化槽とは
浄化槽とは、下水道が整備されていない地域において、家庭や事業所から出る排水を微生物の働きで浄化し、きれいにして放流するための設備です。日本全国で約800万基が使用されており、下水道普及率が低い地域では欠かせないインフラとなっています。
浄化槽の役割
- 生活環境の保全:排水を適切に処理することで、悪臭や害虫の発生を防ぎます
- 公衆衛生の向上:病原菌などを除去し、衛生的な環境を維持します
- 水質汚濁の防止:河川や地下水の汚染を防ぎ、自然環境を守ります
2. 単独処理浄化槽とは
定義と特徴
単独処理浄化槽は、トイレからの汚水(し尿)のみを処理する浄化槽です。台所、風呂、洗濯などからの生活雑排水は処理せず、そのまま側溝や水路に放流されます。
処理の仕組み
- トイレの汚水のみが浄化槽に流入
- 微生物による分解処理
- 沈殿・ろ過処理
- 消毒後に放流
設置時期と現状
- 設置のピーク:1970年代〜1990年代初頭
- 現在の状況:2001年4月以降、新設は法律で禁止
- 残存数:約300万基がまだ使用されている(2024年時点)
なぜ単独処理浄化槽が問題なのか
生活雑排水には、実はし尿よりも多くの汚濁物質が含まれています。
汚濁負荷の比較(1人1日あたり):
- し尿:BOD(生物化学的酸素要求量)約13g
- 生活雑排水:BOD約27g
つまり、単独処理浄化槽では生活排水全体の約70%の汚濁物質が未処理のまま放流されていることになります。これが河川や海の水質汚染の大きな原因となっています。
3. 合併処理浄化槽とは
定義と特徴
合併処理浄化槽は、トイレの汚水と生活雑排水を一緒に処理する浄化槽です。家庭から出るすべての排水を浄化してから放流します。
処理の仕組み
- トイレ汚水と生活雑排水が浄化槽に流入
- スクリーンで大きなゴミを除去
- 嫌気処理槽で有機物を分解
- 接触ばっ気槽で微生物による浄化
- 沈殿槽で汚泥を分離
- 消毒槽で塩素消毒
- きれいになった水を放流
浄化性能
合併処理浄化槽は、放流水の水質基準として以下が定められています:
- BOD除去率:90%以上
- 放流水のBOD:20mg/L以下
これは単独処理浄化槽と比較して、約8倍の浄化能力があります。
種類
合併処理浄化槽にもいくつかの種類があります:
- 分離接触ばっ気方式:最も一般的な方式
- 回転板接触方式:メンテナンスが比較的容易
- 活性汚泥方式:大型の浄化槽に採用されることが多い
- 高度処理型:窒素・リンも除去できる高性能タイプ
4. 両者の具体的な違い
処理対象の違い
| 項目 | 単独処理浄化槽 | 合併処理浄化槽 |
|---|---|---|
| トイレ汚水 | ◯ 処理する | ◯ 処理する |
| 台所排水 | ✕ 処理しない | ◯ 処理する |
| 風呂排水 | ✕ 処理しない | ◯ 処理する |
| 洗濯排水 | ✕ 処理しない | ◯ 処理する |
| 洗面排水 | ✕ 処理しない | ◯ 処理する |
浄化能力の違い
BOD除去率の比較:
- 単独処理浄化槽:約65%(し尿のみ)
- 合併処理浄化槽:90%以上(全排水)
実質的な水質改善効果:
生活雑排水を含めた全体で見ると、合併処理浄化槽は単独処理浄化槽の約8倍の浄化能力があります。
サイズと設置スペース
- 単独処理浄化槽:比較的コンパクト(2〜3㎡程度)
- 合併処理浄化槽:より大きなスペースが必要(5〜8㎡程度)
ただし、技術の進歩により、最近の合併処理浄化槽はコンパクト化が進んでいます。
維持管理の違い
| 項目 | 単独処理浄化槽 | 合併処理浄化槽 |
|---|---|---|
| 法定検査 | 年1回 | 年1回 |
| 保守点検 | 年3〜4回 | 年3〜4回 |
| 清掃 | 年1回以上 | 年1回以上 |
| 年間費用目安 | 3〜5万円 | 4〜7万円 |
合併処理浄化槽の方が若干維持費が高くなりますが、処理する排水量が多いため、単位あたりのコストでは大差ありません。
5. 法規制と設置義務
浄化槽法による規制
2001年(平成13年)4月1日以降:
- 単独処理浄化槽の新設は禁止
- 新たに浄化槽を設置する場合は、必ず合併処理浄化槽を設置しなければならない
既存の単独処理浄化槽について
現在使用中の単独処理浄化槽については、即座の撤去義務はありません。しかし、以下の場合は合併処理浄化槽への転換が求められます:
- 増改築時:建物の増改築を行う場合
- 建て替え時:建物を建て替える場合
- 故障・老朽化時:浄化槽が使用不能になった場合
- 自主的な転換:補助金を活用した転換も可能
転換促進策
国と自治体は、単独処理浄化槽から合併処理浄化槽への転換を積極的に推進しています:
国の目標:
- 2030年までに単独処理浄化槽の廃止を目指す
- 浄化槽による生活排水処理率を向上させる
自治体の取り組み:
- 転換費用の補助金交付
- 撤去費用の助成
- 啓発活動の実施
6. 費用比較
設置費用
単独処理浄化槽(参考:新設は不可):
- 5人槽:30〜50万円程度
- 7人槽:40〜60万円程度
合併処理浄化槽:
- 5人槽:60〜100万円
- 7人槽:80〜120万円
- 10人槽:100〜150万円
※工事費、配管工事費を含む概算
補助金制度
合併処理浄化槽の設置や、単独処理浄化槽からの転換には、国と自治体から補助金が出ます。
補助金の目安(自治体により異なる):
- 5人槽:30〜50万円
- 7人槽:40〜60万円
- 10人槽:50〜70万円
- 単独処理浄化槽の撤去費用:9〜15万円
補助金の条件:
- 下水道認可区域外であること
- 既存の単独処理浄化槽やくみ取り便槽からの転換
- 建築確認申請が必要な新築・増改築
- 自治体の定める基準を満たすこと
※補助金額は自治体によって大きく異なるため、必ず地域の自治体に確認してください。
維持管理費用
年間ランニングコスト(5人槽の場合):
| 項目 | 単独処理浄化槽 | 合併処理浄化槽 |
|---|---|---|
| 保守点検 | 15,000〜25,000円 | 20,000〜30,000円 |
| 清掃 | 10,000〜20,000円 | 15,000〜25,000円 |
| 法定検査 | 5,000〜7,000円 | 5,000〜7,000円 |
| 合計 | 30,000〜52,000円/年 | 40,000〜62,000円/年 |
電気代
合併処理浄化槽は、ブロワー(送風機)を24時間稼働させる必要があります。
- 月額電気代:500〜1,500円程度
- 年間:6,000〜18,000円程度
※最近の省エネ型ブロワーでは月500円程度に抑えられます。
7. メリット・デメリット
単独処理浄化槽
メリット
- 設置費用が安い(※ただし新設は不可)
- 設置スペースが小さい
- 維持管理費が若干安い
デメリット
- ✕ 新設が法律で禁止されている
- ✕ 生活雑排水が未処理で放流される
- ✕ 環境汚染の原因となる
- ✕ 悪臭やヘドロの発生リスク
- ✕ 近隣トラブルの可能性
- ✕ 資産価値の低下要因
- ✕ 将来的には撤去・転換が必要
合併処理浄化槽
メリット
- ◯ すべての生活排水を処理できる
- ◯ 高い浄化能力(BOD除去率90%以上)
- ◯ 環境にやさしい
- ◯ 悪臭が少ない
- ◯ 法規制に適合
- ◯ 補助金が利用できる
- ◯ 資産価値の維持
- ◯ 近隣への配慮
デメリット
- 設置費用が高い(補助金で軽減可能)
- 設置スペースが必要
- 維持管理費が若干高い
- 電気代がかかる(ブロワー稼働)
8. 切り替え・撤去について
単独処理浄化槽から合併処理浄化槽への転換手順
自治体への相談・確認
- 補助金制度の確認
- 必要書類の確認
- 設置基準の確認
業者選定・見積もり
- 複数の浄化槽業者から見積もりを取得
- 実績と評判を確認
- 保守点検契約の内容確認
補助金申請
- 必要書類の提出
- 審査・承認
- ※工事着工前に申請が必要な場合が多い
工事実施
- 既存浄化槽の撤去
- 新規浄化槽の設置
- 配管工事
- 期間:3〜7日程度
検査・引き渡し
- 設置後の水張り検査
- 自治体の完了検査
- 保守点検契約の締結
補助金の交付
- 完了報告書の提出
- 補助金の受け取り
転換時の注意点
トイレが使えない期間
- 工事期間中(通常3〜7日)はトイレが使用できません
- 仮設トイレの設置が必要な場合があります
- 近隣の施設を利用する計画を立てておきましょう
配管工事の範囲
- 生活雑排水の配管も浄化槽につなぐ必要があります
- 既存の配管を利用できる場合と、新設が必要な場合があります
- 庭や駐車場を掘る必要がある場合も
撤去後の処理
- 既存の単独処理浄化槽は、適切に清掃・消毒して撤去または埋め戻し
- 不法投棄にならないよう、専門業者に依頼
9. よくある質問(FAQ)
A: いいえ、即座の交換義務はありません。ただし、以下の場合は合併処理浄化槽への転換が必要です。
- 建物の増改築・建て替え時
- 浄化槽の故障・老朽化時
- 自治体から転換指導があった場合
また、環境保全の観点から、できるだけ早期の転換が推奨されています。補助金制度もあるため、計画的な転換をお勧めします。
A: 適切に維持管理すれば、20〜30年は使用できます。
長持ちさせるポイント:
- 定期的な保守点検(年3〜4回)
- 年1回以上の清掃
- 法定検査の受検
- ブロワーの定期交換(7〜10年)
- 異常があればすぐに業者に連絡
A: 自治体によって異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。
浄化槽設置費用:
- 5人槽:30万〜50万円
- 7人槽:40万〜60万円
単独処理浄化槽撤去費用:
- 9万〜15万円
詳細は必ずお住まいの市区町村の環境課や下水道課にお問い合わせください。
A: 基本的には所有者(オーナー)の負担となります。
- 設置・交換費用:オーナー負担
- 維持管理費:契約によりますが、オーナー負担が一般的
賃借人の場合は、オーナーに相談してみましょう。補助金を活用すれば、オーナーの負担も軽減できます。
A: 集合住宅の場合、建物全体で大型の合併処理浄化槽を使用することが一般的です。
- 新築:必ず合併処理浄化槽
- 既存建物:単独処理浄化槽の場合、管理組合やオーナーによる転換が必要
- 費用:規模により数百万円〜。補助金制度も利用可能
A: 建築基準法に基づき、以下のように決定されます。
住宅の場合:
- 延床面積130㎡以下:5人槽
- 延床面積130〜250㎡:7人槽
- 延床面積250㎡以上:10人槽
実際の居住人数ではなく、建物の大きさで決まります。
A: それぞれ目的と内容が異なります。
保守点検(年3〜4回):
- 浄化槽の機能チェック
- ブロワーの点検
- 消毒剤の補充
- 汚泥の状態確認
清掃(年1回以上):
- 浄化槽内の汚泥の引き抜き
- 槽内の洗浄
- スカムの除去
どちらも法律で義務付けられており、専門業者に依頼する必要があります。
A: 下水道が整備された場合、3年以内に下水道へ接続する義務があります(下水道法)。
手順:
- 自治体から接続工事の案内
- 指定工事業者に依頼
- 浄化槽の使用停止・撤去
- 下水道への接続工事
浄化槽は適切に廃止し、撤去または埋め戻しを行います。
A: 災害時の対応:
地震時:
- 浄化槽本体の破損確認
- 配管の破損確認
- 異常があれば使用を中止し、業者に連絡
台風・豪雨時:
- 浄化槽が水没する可能性
- 復旧後、清掃・消毒が必要
- 保守点検業者に連絡
災害後は、専門業者による点検を受けてから使用再開してください。
A: 寒冷地では凍結対策が必要です。
対策方法:
- 保温材の巻き付け
- 凍結防止ヒーターの設置
- ブロワーの連続運転(微生物が発熱)
- 配管の断熱処理
適切な対策を行えば、冬季でも問題なく使用できます。
10. まとめ
重要ポイント
1. 単独処理浄化槽は2001年以降新設禁止
- し尿のみを処理、生活雑排水は未処理
- 環境汚染の大きな原因
- 約300万基が今も使用中
2. 合併処理浄化槽がスタンダード
- すべての生活排水を処理
- 高い浄化能力(BOD除去率90%以上)
- 環境にやさしく、法規制に適合
3. 転換には補助金が利用できる
- 設置費用の一部を補助
- 撤去費用も助成対象
- 自治体によって金額が異なる
4. 維持管理は法律で義務化
- 保守点検(年3〜4回)
- 清掃(年1回以上)
- 法定検査(年1回)
今後の展望
日本政府は、2030年までに単独処理浄化槽の廃止を目標としています。環境保全と持続可能な社会の実現のため、合併処理浄化槽への転換が加速していくでしょう。
行動のステップ
もし現在単独処理浄化槽を使用している場合:
早めの転換により、以下のメリットがあります:
- 補助金の確実な利用
- 環境への貢献
- 近隣への配慮
- 資産価値の維持
お問い合わせ先
浄化槽に関する相談窓口:
- 各市区町村の環境課・下水道課
- 都道府県の浄化槽協会
- 公益財団法人 日本環境整備教育センター
補助金について:
- お住まいの市区町村役場
- 環境省の補助金情報サイト
参考資料
- 環境省「浄化槽の整備について」
- 国土交通省「浄化槽関連施策」
- 公益財団法人 日本環境整備教育センター
- 各都道府県浄化槽協会の資料
おわりに
単独処理浄化槽から合併処理浄化槽への転換は、環境保全だけでなく、快適な生活環境の維持にもつながります。補助金制度を活用すれば、費用負担も軽減できます。
この記事が、浄化槽に関する理解を深め、適切な選択をするための参考になれば幸いです。
ご不明な点がございましたら、お住まいの自治体または専門業者にお気軽にご相談ください。